Slight intoxication

遅番を定時で上がった夕食後、何気なく覗いたラウンジで夏目達と同期飲みという感じになったのは、ほんの偶然。
酔いが回った柴が泣きに入ったところでお開きということになった。
柴を連れて行く梅沢を見送り、グラスを片付けていると隅のバーカウンターから声がかかった。

「城、これから部屋?」
「ええ。」

まさかこれから付き合えというのだろうか?
ラウンジに入った時から、アレクさんと宇崎さんの管理職2人を除いた開発班の面々がバーカウンターで冠さんの作るカクテルを飲んでいたのは知っていた。
たまに混ぜてもらうことがあるが、開発に一区切りがつくとよく見る光景だから今回は同期飲みを優先させたのだ。

「じゃあさ、ついでに連れてってくれる?」

予想外の台詞で冠さんが指した先には、潰れきった妻夫木とマイペースに飲んでいる植草さん。

「妻夫木ですか?」
「や、うえぽんのほう。結構飲んでるんだよ。顔に出てないけどね。」

俺、手が離せないから、と苦笑いしながらロウさんに頼まれたカクテルを作っている。
部屋に戻っても後は寝るだけで急ぎの用があるわけでもないし、植草さんなら部屋も比較的近くだし構わないが……。

「悪いね、城。今度何か作ってやるから。」
「甘くない物で頼みます。」
「了解。うえぽんお迎えだよー。」

冠さんが声をかけて空になったグラスを取り上げると、やっと俺の存在を認識したのかくてっと振り返った。

「植草さん、部屋に戻りますよ。」
「じょお……?」

近づいて不思議そうに首を傾けたままの顔を覗き込むと、たしかにいつもよりもとろりと眠そうな感じの瞳。

「部屋まで送りますから、帰りますよ。」
「ん……くぁんさんごちそーさまでした。」

冠さんに暇を告げて、スツールからふらりと立ち上がった植草さんの腕を取って支える。
言われた通り、だいぶ飲んでいるようで足元がおぼつかないようだ。

「大丈夫ですか?」
「んー?うー……じょお、おんぶ。」

いくら理不尽な要求でも、それが自分に可能なことであれば酔っ払いには逆らわない。
それは幼い頃から父親やその友人たち――今は西脇さんの年の離れた悪友――で学習したことだ。
アレクさんのようにガタイが良すぎるわけではなく、むしろ隊員の中では小柄な部類の植草さんを背負うのはそれほど苦ではない。
少し屈んで背中を向けると素直に肩に手をかけてくる。

「しっかり掴まっててくださいよ。」
「ん〜〜。」
「あ、城、うえぽん明日休みだから。」
「分かりました。」

開発の面々に会釈をすると手をふり返しながらパレさんが教えてくれた。
ラウンジを出てしばらくすると、植草さんはポスンと肩口に頭を預けてきた。

「……なんで…?」

その疑問はなんで俺が部屋まで送るのか、ということだろうか?
ただ単にラウンジから出ようとしたところが冠さんの目に入っただけだろう。
別の意味――たとえばアレクさんとマーティのような関係――を勘ぐられていたらそれこそ「なんで?」だ。

「さあ?たまたま目に入ったからじゃないですか?」
「…………」

その沈黙の意味は納得したのか、していないのか。
普段でも何を考えているのか分からない不思議系の思考回路は、酔いを増している分より計り知れない。
まあいい、どちらにしろ酔っ払いには当たらず触らず。
そんなふうに考えるのは、自分もそこそこ酔いが回り始めている証拠なのだろう。
黙ったままの植草さんは俺の背中で身じろぎをしている。
収まりの良い場所を探っているようで、もそもそと動くたびに不揃いな髪が首筋に触りくすぐったい。

「植草さん、鍵、どこに入ってます?」

そういえば一番肝心なことを聞いていなかったと、やっと落ち着き場所を決めた背中に問い掛ける。
が。頭の納まりを決めてすぐに寝落ちしてしまったようで答えは返ってこなかった。
密着した背中にとくんとくんと寝入りばなの少しゆったりとした鼓動が伝わる。

「安藤、部屋にいるかな…」

鍵どころか同室者の在不在も確認が取れないが、いなければそのときだ。
自分の同室者は夜勤だから、部屋に連れて行ってベッドを提供してもいい。
そんなことを少し酔いの回り始めた頭で考えながら、背中に心地よいぬくもりを感じていた。

Fin


2008/04/29初稿
2008/04/30一部加筆修正


城ちゃん、開発班のお兄さんたち公認でうえぽんのお持ち帰り。
でも、送り狼と言うよりも小さな子か小動物の保護……(笑)
実は城ちゃんも結構な量を飲んでいるので、
部屋についたところで一緒に沈没です。
Slight intoxication=ほろ酔い

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