昼休み後の閑散とした自販機スペースの窓から、グラウンドで講義を受けている1年目の訓練生が見える。
炎天下にもかかわらず、君塚教官の実技指導は相変わらず自衛隊式の容赦ないものだ。
まあ、この指導にある程度ついてこれない者は、基礎体力不足でこの先、現場に出てもやっていくことはできないのだが。
実際問題として、厳しい入校試験を受けて入学しても2年間の訓練課程を終了せずにドロップアウトしていく者は多い。
もちろん、それぞれに理由が異なる。
精神的、体力的に訓練について行けない者。
試験は通っても、最終的に適正不足な者。
悩んだ末、自ら新たに別の道を進むことにした者。
不測の事態で先をあきらめざるを得ない者。
そして志半ばで同期に託した夢を、どのような形でも助力できる者は数少ない。
その数少ない中でも「後進の者を育てる」という形で、この春から教官職につくことが出来たのは、本当に稀なことだ。
リハビリ後、身の振り方を模索していた自分を訓練校に誘ってくれた有馬さんには、感謝してもしきれない。
「榎木よ。」
「なんでしょう、有馬さん。」
隣でタバコを燻らせながら同じように訓練風景を眺めていた有馬さんが、視線をそのままに呼びかける。
「俺ぁ、あいつら見てると、お前らの代を見てるような気がしてくる。」
「そうですか?」
こういう職を選ぶのだから、大人しげな見かけに寄らず黒帯とか、警察官上がりだとか、過去の経歴傾向が似ているのは当たり前だが、そんなに似ているだろうか。
「俺んところに集まってきてる話では相当似通ってるぞ。言動が珍妙だとか、自作の妖しい護身用武器を携帯しているとか、爆発物処理の試験で同じ名言を吐いたとか。」
ヒヨッコ訓練生の武勇伝を指折りあげつらって有馬さんがニヤリと笑う。
たしかにそれは特殊な部類だ。
が、素でそこまで彼らと同じ事をしているなら優秀な隊員になる素質を持っているともいえる。
「まあ、根本的に違うのはヤツラほど食えない奴が居ないところか。」
ヤツラ、と括られた同期は官邸とJDGの両外警班長と現在海外研修中の美貌の主だ。
こんなことを言われていると分かったときの彼らの反応が思い浮かぶ。
「彼らのような曲者が何人もいたら、それはそれで問題でしょう。」
「確かにあんなのがゴロゴロいたら訓練どころじゃなくなる。さて、講義の準備でもするか。」
喉の奥で笑いながら有馬さんが席を立った。
笑いを堪えながら有馬さんを見送り、再び窓の外で持久走に励むヒヨッコ訓練生に視線を戻した。
果たしてこの中の何人が訓練に耐えここから巣立ち、同期たちの後輩警備隊員になるのだろうか。
願わくば、より多くのものがその胸の中に誓った夢に向かって進んでほしい。
「ファイト、一発……ってとこかな。」
かつて同期とともに熱く語った夢を思い出し、ヒヨッコ訓練生にエールを送った。
Fin
2008/06/03初稿
2008/06/05一部加筆修正
19年入隊組みの訓練校1年生時代を捏造(笑)
いろいろ逆算して考えてみて、榎木さんも教官1年目くらいだろうかと。
武勇伝はどれが誰だか……微妙に隊長達とは、ずれてます。
武勇伝の模様は現在拍手にて展開中(2008/06/08〜)