今年のコンピュータ班の新人はその所属超えて非常にアクティブに行動する。
先代の教官の息子であるという生い立ちと、生まれ持った素質はそれをうまく引き出してくれる人たちを得たことで、成長著しい。
非常時はもちろん、通常時でも外回りでちょっと派手目の捕り物があれば、中央監視室に勤めているはずなのにいつのまにか開発班長とタッグを組んで参戦している光景は茶飯事となりつつある。
コンピュータ班と同じ中央管理室を根城にする室管理班所属といっても、自分はまだ下っ端の部類で、中央管理室に常駐していることはほとんどないから、彼の仕事振りを見るのはもっぱら、その「所属を超えた仕事」だった。
それにしたって、偶然、捕り物をやっている場所の側が持ち場になっている時に見るのであって、毎回目にするわけではない。
だから、彼にも弱い物があると知ったのは、ほんの偶然だった。
夕食ラッシュ真っ只中の食堂で、一人で夕食に来た時に、同じ班の隊員の近くに空席がなく、特に親しくしている同期たちの姿も見当たらず、空席を探していた目の前でカウンター近くの席が空いたとすれば、そこに座ろうと思うのは至極自然なことで。
「ここ、いい?」
「どうぞ。山下さんと小野さんは勤務に戻ったので。」
相席になったのは、コンピュータ班の新人とその教育係、彼と同期の整備班員2人。
正直、あまり積極的に話す機会がないメンバーだ。ここに整備班のアイドル好きな同期がいれば少しは話ができただろうが、いない者を望んでも仕方がない。
反対の端で他愛ない口喧嘩をしている坂口と牧山から1つ間を置き座る。
同期で親友でもある野田は苦笑しながらも何とかその場を取り持とうとしているが、目の前のコンピュータ班の新人は、いつものことと騒がしい先輩たちに少々眉をひそめつつ、黙々と箸を進めている。
相席になるのが誰でも、そつなく対処できる彼には特に気にすべきことではないのだろう。
こういうときに何を話していいのか会話の糸口も見つからず、俺も黙々と食事をする。
と、しばらくして向かい側からの視線を感じてトレイからを上げる。
「……なに?城。」
「あ、いえ……」
微妙に俺のトレイから目をそらしつつ泳いだ目はどことなく潤んでいるように見える。
あらかたなくなった彼のトレイは洋風定食。
俺のトレイは魚定食。今日の魚は塩焼き秋刀魚の尾頭付き。
もしかして、食べたかったのだろうか?
「……さんま、いる?」
「いえっ、そうではなくっっ」
綺麗に半身にした秋刀魚の手をつけていないほうを皿ごと差し出すと目に見えて狼狽する。
「植草さん、皿、引っ込めてください!」
小さく潜められたその言葉は、遠慮と言うよりは懇願に近い声音で。
「……?」
「お願いですから……」
一段と潜めて告げられた言葉に差し出していた皿を元に戻す。
城が秋刀魚の皿を気にしているのは確かだ。だが、欲しいのではないなら、なんだろう?
ほかの隊員が食べている魚定食ととくに変わったところはない。
食べ方自体も自己流だが、岸谷さんの指導が入らない程度にはきれいだと思う。
「……」
「あの、気にしないで食べてください。」
考えながらついつい秋刀魚の皿を睨んでいたら、城が申し訳なさそうに言う。
だが、やはりその目は微妙に泳いでいたし、先ほどよりも潤みが増しているような気がした。
「……目……」
城の目が気になってポロリとこぼれた言葉に、ビクリと目の前の人物の身体がぶれる。
何で「目」といっただけで過剰反応するのだろう……ん?……目?
思い至った考えに、皿と城を交互に見比べる。
「………」
添えてあった大根おろしをどさっと秋刀魚の頭に被せてみる。向かいの席から微かにホッと息を吐きだした気配がした。
「城………さんま、たべる?」
「……いただきます。」
被せたおろしをそのままに、もう一度目の前に皿を差し出すと、コンピュータ班の優秀な新人は苦笑しながら、一切れ、秋刀魚を取り分けた。
その後はまた会話もなく、二人とも黙々と食事を続けたのだった。
Fin
2007/09/30 初稿
2007/10/02改稿
城ちゃんの誕生日に……祝ってないし
第2種接近遭遇=(UFOが)周囲に何かしらの影響を与えること